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2017.02.27

新しい技術を社会にインストールする[前編]竹村真人さん

今、浜松で起きている面白いこと。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いことが起きている。
その発想を紐解くと、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

~あなたは、どんなモノを作り出す人ですか~

 

 

誰もが気軽にモノづくりできる場所

 

3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタル工作機器を使えば、家庭用のプリンターで印刷するような感覚でモノを作ることができます。テクノロジーの進化によって、これまで企業や専門性の高い人たちだけのものだった「モノを作る」技術や情報を、誰でも簡単に手に入れることができる時代になってきています。そんな市民の自由な“モノづくり”の変化をいち早く取り入れ、試していく場所がファブラボ(FabLab)です。(※)

ファブラボの考え方は、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)のニール・ガーシェンフェルド教授がはじめた「How to Make( Almost) Anything (《ほぼ》何でも作る方法)」という授業がベース。さらに「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化を醸成すること」をモットーに、先進国のみならず、発展途上国を含めた世界50カ国600ヶ所以上に設立され、その数は今も増え続けています。

今回は、2014年7月にファブラボネットワークに加盟した「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」の代表である竹村真人(たけむらまさと)さんを訪ねました。

 

 

浜松駅から車で30分ほど。のどかな田園風景が広がる住宅街に「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」はあります。自宅の納屋を改造してできた施設には、3Dプリンター、レーザーカッター、大型のCNCルーターなどのデジタル工作機械と並んで、木や金属を加工するアナログ工作機なども所狭しと並んでいます。昨年にはバイオラボも完成し、幅広い領域のモノづくりができるスペースへと進化。竹村さんにこの場所を作ったきっかけを聞くと、「Make:」という一冊の雑誌を取り出しました。

▲アメリカに本社があるオライリー・メディア社が刊行している「Make:」

 

同誌は、アメリカ発のテクノロジー系DIY工作専門雑誌であり、自分でロケットや衛星検知アンテナなどを作る、エクストリームなDIYを楽しむ人を取材し、その作品やテクニックを紹介しています。数年前の日本では発売がなく、わざわざアメリカから取り寄せていた竹村さん。「Make:」を通じモノづくりの世界にのめり込んでいきます。「いつしか自宅を開放して、ユニークな人たちが集まれるハッカースペースを作りたい」という思いが募り、日本の第一人者に相談。その後仕事を辞め、2ヶ月ほど海外のハッカースペースなどを訪問してそのノウハウを学び、2012年12月、ものづくりコミュニティ「TAKE-SPACE」を立ち上げました。

その1年後、ファブラボの世界会議が横浜市で開催されることに(FAB9)。その会議で世界各地から集まった人たちと直接話すことで、ファブラボのコミュニティの面白さに触れた竹村さんは、さらにその後、世界中のファブラボをネットワークで繋ぎ、モデリングやプログラミングなど、(ほぼ)あらゆるモノの作り方を学ぶオンライン授業「ファブアカデミー」を5ヶ月間受講。世界の最先端で活躍する研究者の講義に興奮し、毎週の課題提出に苦労しながらも、見事卒業。ファブ施設に必要な知識、技能などを体得し、2014年7月、「TAKE-SPACE」としてファブラボネットワークに加盟しました。

▲所狭しと工作機械が並ぶ。右端にあるのは、Roland D.G製3Dプロッター「MDX-40」。CADデータから実体モデルを作ることができる。

会員制である「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」には、メーカーを定年退職した方、地元の大学生、パソコンクラブに所属する高校生など、世代を超えてモノづくりの好きな人々が集まってきます。「ひとり黙々と作るだけでは面白くない」と、自転車を漕いで作るかき氷機や映画「バットマン」に登場するバイク、田んぼの草取りをサポートするアイガモロボットなど、アイデアを出しあいながらみんなでわいわいとモノづくりを楽しんでいます。他にも、日々進化するツール、技術や情報に対応できるよう、メンバーが得意とする3D-CADやプログラミングといったスキルを共有する勉強会も行っています。

オープンマインドで、地域と世界に開かれた場所

 

「僕はもともと、装置の開発をしていたエンジニアの出身。浜松生まれだから、車やバイクにはアイデンティティを感じていて、ロボットコンテストを開催したくて国立の沼津工業高等専門学校へ進学しました。実家が農業をしていたこともあり、高校生になると農作業を手伝わされましたが、単純作業ばかりでつまらない(笑)。『ロボットを使えばもっと楽に、もっと効率的になるんじゃないか』、そんなことばかり考えていました」

▲敷地入り口には落書きされたサボテン。この落書き、実はサボテンのどの部分が成長するかの目印として書いたもの。遊び心を忘れずに、とことん楽しむ雰囲気にあふれている。

 

「今はここを運営しながら、企業から受託したプロトタイプを作る仕事や、社外アドバイザーとして企業の相談にのっています。中小企業って技術はあるけれど、何を作っていいか分からず悩んでいるところが多いように感じます。海外のファブラボのコミュニティで得た情報を元に、『世界は今こんな感じになっている。だからこんなものが求められているのでは』といったアドバイスをしています」

2045年には、AI(人工知能)が人間の能力を超える『シンギュラリティ(技術特異点)』に到達すると言われています。テクノロジーの進化の影響は一般の人には理解しにくく、「AIに仕事を奪われる」、「機械に支配される」といった記事が注目を集めるなど、ネガティブなイメージが先行してしまう状況も起きています。

「アメリカでファブラボが生まれたときも同じで、『3Dプリンターを使えば銃が作れるから、ファブラボは危険だ、取り締まるべきだ』となりました。ですが、ファブラボはオープンなネットワークなので技術はシェアされるし、誰かが怪しいことをしていたら、あっという間に世界中で噂になります。反対に、一部の企業がクローズドで技術を開発し、特許を取得し独占していく方が危険だと思います。要は使い方の問題なんです。以前は、3Dプリンターなどを一般に普及させたいという思いがありましたが、今は、『新しい技術をどう社会にインストールしていくのか。どう社会で役立てられるのか』を意識し始めました。ファブラボの使命はそんなところにあるのではないかと思っています」

 

竹村 真人

「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE 」代表。プロトタイプ制作者として、ハードウェアだけでなく、プログラミングなどのソフトウェアに関する総合的な技術や知識を生かし、IoTデバイスやドローンなどの開発も行う。また、社外アドバイザーとして、企業の製品開発やブランディングなどにも携わる。3Dプリンターを使った小学生向けの出張講座など、デジタルファブリケーションやSTEM教育の普及にも取り組んでいる。

「ファブラボ浜松/ TAKE SPACE」(http://www.take-space.com/
浜松市西区西鴨江町3645番地

 

※ファブラボ(FabLab)
ファブラボは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワークであり、ファブラボの名称を利用するための条件として、一般市民に開かれていることやファブラボ憲章の理念に基づき運営されていることなどがあります。(FabLab Japan ホームページ参照:http://fablabjapan.ort/whatsfablab/

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