人2019.12.02
ものづくりの原点にある、遊ぶという感覚[前編]デザイン寮 / 岩佐啓輔さん・小瀧浩さん・山野裕之さん
〜友だちと夢中になってものづくりした経験はありますか〜
ヤマハやカワイ、ローランドといった世界的楽器メーカーの本社があり、多くの楽器関連企業が集まる“楽器のまち・浜松”。近年では、音の可能性に着目し、創造的な視点やこれまでにない手法で音の力を社会に応用する「サウンドデザイン」へも取り組んでいます。2019年12月7日(土)・8(日)には、鴨江アートセンターにてサウンドデザインに関する体験型プロダクトの展示、ワークショップなどを行う「サウンドデザインファクトリーin浜松2019」を開催。同イベントに出展する「デザイン寮」の岩佐啓輔さん・小瀧浩さん・山野裕之さんを訪ね、お話しを伺いました。
▲「デザイン寮」の岩佐啓輔さん(写真中)・小瀧浩さん(右)・山野裕之さん(左)
ーー「デザイン寮」は、どのような活動をしているか教えてください。
(岩佐)結成は2010年。その年に入社したメーカーの同期で、一緒に新人研修を受けていたんです。当時研修は座学が多くて、せっかくエンジニアやデザインができる人間が集まっているから、なにか自分たちで面白いものを作りたいよねとなって生まれたのが「デザイン寮」です。みんな同じ社員寮で生活していたので、この名前が付きました。
(小瀧)「アイデアを出して、試作をして、人に触ってもらって、新しい体験を提供したい」という思いで活動をしています。たまたま音楽好きが集まっていることもあって、作るものは電子楽器が多いですね。自分たちだけで楽しんでいても面白くないし、せっかく作ったのだから、他の人の反応が見たくなる。そうなると、どこかで見たことのあるものを作っても面白くないから、「新しい」「面白い」「楽しい」というのが大事になってきます。お客さんが体験して、どんな反応をするかがとても楽しみなんです。
ーー現在は5名で活動中とのことですが、それぞれ役割があるのですか?
(山野)外装製作、回路設計、プログラミング、トラックメイキングなどなど、各人に得意分野はありますが、明確な役割を設けてはいません。みんなで一緒に考え、アイデアが生まれたら、すぐにダーティプロトタイプ(※1)を作り、コレは違うよねとか、グッとくるよねとか、みんなで話しながらブラッシュアップしていきます。理屈上は面白いかもと思っていても、実際に体験してみると、あんまり面白くなかったり、理屈上正しくなくても意外に面白いこともあったりと、作ってみないと分からないことが多いので。最初のアイデアのまま進むことはほとんどなく、作ってはダメ出しして、改良してというのを繰り返します。
▲作品制作中の様子
ーーみなさんのグッとくるポイントは同じなんですか?
(岩佐)メンバーによって少しずつ違っていて、むしろその違いを大事にしています。意見の違いや感覚の違いはあっても、プロトタイピングを繰り返していくことで、ちゃんと1つの作品として完成していきますよ。
(山野)逆に、同じ感覚の人ばかり集まっていると、コレいいじゃんで終わっちゃって面白くないですしね(笑)
ーー仕事をしながらの活動ですが、何か課題を設定して取り組んでいるのでしょうか?
(山野)それはあまりなくて、気合いの入った趣味の活動という感じでしょうか。気の合う仲間と納得いくものを作るってのが面白いし、それが醍醐味だと思います。
(小瀧)気ままに作りたいものを作る日曜大工や車好きが集まって一緒にチューンナップする感覚に近いかもしれませんね。
(岩佐)結成した10年前は、ちょうどクリス・アンダーソンが提唱したメイカームーブメント(※2)が話題で、個人のメイカーが注目を集める時期でした。一時期は自分たちで工作用のスペースを借りたりして、3Dプリンターや工具を持ち込んで、材料を切ったり、ハンダづけしたり自由に制作していました。
(小瀧)「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」(※3)で気軽に工作できたり、中区高林にあるマルツ浜松営業所で電子部品やモジュール基板などが買えたり、浜松は個人でもの作りしやすい環境が整っている。なにより、ものづくりを楽しむ人が集まっているというのは恵まれた環境だと思いますよ。
自分たちが楽しめるものづくりをしたいと始まった「デザイン寮」。後編では、作品を通じて彼らの活動の真相に迫ります。
デザイン寮
2010年、浜松のメーカーに務める同期によって結成。「アイデアを出して、試作をして、人に触ってもらって新しい体験を提供したい」人たちが集まった集団。自作の電子楽器を製作し、体験してもらうことを活動の中心にしている。「Maker Faire Tokyo」「サウンドデザインフェフェスティバルin浜松2017」、「サウンドデザインファクトリーin浜松2019」などに出展。
https://design-ryou.com/
※1 ダーティプロトタイプ
アイデアを議論するのではなく、まずは試作品を作ってしまおうという手法。アイデアを完全に形にするのではなく、アイデアのポイントを紙や粘土など、身の回りにあるものを使い雑に(ダーティ)作ることで、実際の使われ方や操作感などをすぐに確認できるメリットがある。
※2 クリス・アンダーソンが提唱したメイカームーブメント
アメリカ『WIRED』の元編集長であり、3D Robotics社のCEOであるクリス・アンダーソンが著書『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』で提唱した概念。それまで大手資本でしかできなかった製造や開発が、3Dプリンターなどの普及によって個人のメイカーズに移ると指摘。誰もでもものづくりができる環境は、第三の産業革命とも言われている。
※3 ファブラボ浜松/TAKE-SPACE
ファブラボは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワーク。浜松では、以前から工房を営んでいた「TAKE-SPACE」が2014年7月にファブラボネットワークに加盟。デジタルファブリケーションやSTEM教育の普及などに取り組んでいる。www.take-space.com
当サイトでも、「ファブラボ浜松/TAKE-SPACE」代表である竹村真人さんにインタビューを行った。
「新しい技術を社会にインストールする[前編]」
「新しい技術を社会にインストールする[後編]」