人2018.08.27
人との出会いが創造性を生み出す、新しい場のカタチ[前編]中谷明史さん
今、浜松で起きている面白いこと。
まだ、小さなムーブメントかもしれないけれど、
なぜか惹きつけられてしまう不思議な魅力がある。
その秘密を探ってみると、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。
〜あなたにとって創造的な場所はどこですか〜
急速に拡大を見せているコワーキングスペース市場。2018年上半期だけで、前年の2倍以上のスピードで成長しています。(※1)働き方の多様性という側面だけでなく、利用者同士が会話し、刺激し合える場としての機能も流行している理由の一つかもしれません。今回は、天竜区二俣町の「KISSA&DINING 山ノ舎(やまのいえ)」のオーナーであり、この7月より、店舗の2階に会員が自由に使えるシェアリビング「ニカイ」をオープンさせた中谷さんを訪ね、“場”の在り方についてお話を伺いました。
▲山ノ舎のオーナー 中谷明史さん
みんなが楽しく生活できる環境をつくる
ーーシェアリビング「ニカイ」についてお聞きしたいのですが、まずは中谷さんが山ノ舎を始めた理由を教えてください。
(中谷)一番の理由は、地元である天竜が寂しくなっていたということ。3年前のゴールデンウィークに帰省したとき、昔遊んでいた商店がなくなっているのを目の当たりにして、ヤバイじゃんって。元焙煎所だった空き店舗を見つけ、まちおこし的な文脈で自分にできることがないかなと考え、始めたのが「山ノ舎」です。
ーー山ノ舎を営業して、もう3年がたちますね。
(中谷)以前住んでいた東京も面白かったんですけど、天竜も含めた中山間地域って、どんどん人が減っていて、衰退していくと言われている地域ですが、僕にはすごく魅力があり、伸びしろがある地域に見えました。だから、この町というか、自分の生活、自分を含めた周りのみんなが楽しく生活できる環境をつくれればいいなと思い、お店を続けています。
1冊の本との出会いが人生を変える
ーー東京ではバーテンダーとして働いていたと聞きました。
(中谷)お酒や発酵に興味があって、東京農業大学の短期大学部、醸造学科へ進学しました。お酒のある場で働きたいと、ドレスコードがあるようなオーセンティックバーでアルバイトとして働いていました。卒業後はそのままお店に就職し、2年が過ぎるとお店を任せてもらえるようになりました。ただ、その頃になると、お酒に興味があるのではなく、“お酒のある空間”に興味があることに気付き始めていました。そんなときに出会ったのが、東京R不動産(※2)による『だから、僕らはこの働き方を選んだ』という本でした。
ーーその本のどのような所に惹かれたんですか。
(中谷)自分の思っていた、働くという概念がガガガーッと壊されていくのを感じました。不動産というすごく硬いものを、これだけクリエイティブに面白く取り扱っている人たちがいるのを知ってすごく感化されました。すぐにバーを辞めさせて欲しいと伝え、半年後には東京R不動産で働き始めることになります。仕事は物件探しから、取材、撮影、紹介文のライティング、お客さまへの案内(内見)など、一人で全てを担当し、とても勉強になりました。働き始めて2年。ゴールデンウィークに帰省して、冒頭でも話した山ノ舎になる物件と出会うことになります。
人と人が自由にコミュニケーションできる場
ーーあらためて、シェアリビング「ニカイ」を始めた経緯を教えてください。
(中谷)山ノ舎はカフェの営業だけでなく、週末などにトークイベントなども開催しています。みんなが集まると、こんなことしたいよねとか、話がバンバン出てくる訳じゃないですか。今すぐにでも動き出せる話もいくつかあったんですけど、結局その場だけで終わってしまうことが結構多くて、本当にもったいないなと。だから、山ノ舎がカフェの範疇を超え、地域の拠点として変化するとしたら、熱い思いを持った人たち、何かやりたいと思っている人たちが集まって、動き出せる場所でないといけないと考えていました。
ーーそんなニカイの住人の一人である、井部雅知子さんに来ていただきました。井部さんはすぐ近くの天竜高校で家庭科の教師をしているそうですが、参加しようと思ったきっかけを教えてください。
(井部)社会人講師として中谷さんに、地域活性化としてお店をしている話を授業で話してもらえないか相談しているとき、ニカイの構想を聞き、面白そうだと思い参加しました。学校ってある意味で閉鎖的な世界じゃないですか、悪口ではなく(笑)。自分から積極的に外の世界に関わらないと視野が狭くなってしまう。これまでは自分から人に会いに行かないとダメだったけれど、ここに来ればいろんなネットワークを持った人がいるので、世界が広がっていくのを感じます。
▲天竜高校の教師 井部雅知子さん
ーーニカイでは何をされているのですか?
(井部)最初は仕事するつもりでいたんですが、誰かいると、しゃべっていることがほとんど(笑)。職場を離れて話ができるので、自分の職業とか、肩書とか気にしないで話ができますし、相手に対してもどんな仕事をしている人ではなく、その人として話をしているというか。
ーーニカイでは何をしてもいいし、行動を制限するような厳しいルールもない。自由に過ごせるからこそ、メンバーが自然と交流しやすい状況をつくっているのかもしれないですね。
(中谷)物事を始めるには、明確なコンセプトがなければいけないと思っていましたが、ニカイを始めてみて、なくてもいいのかなと思うようになりました。コンセプトがあることで場の役割を規定してしまって、何かが生まれにくくなりそうだから。結果、うまくいっていますね。
あえて制約を設けない自由な空間でのコミュニケーションが、ニカイに参画するメンバーの刺激となり、視野を広げていると言えそうです。後編では、ニカイでどのようなことが生まれようとしているのか、もう少し詳しくお聞きします。
中谷明史
KISSA&DINING 山ノ舎 オーナー。浜松市生まれ。東京農業大学短期大学部醸造学科へ進学のため東京へ。在籍中からオーセンティックバーで働き、卒業後は店舗責任者として活躍。その後、東京R不動産で働く。2015年浜松にUターンし、「KISSA&DINING 山ノ舎」をオープン。2017年には、本当に魅力的な「人・物・事」にフォーカスした旅の提案サイト「uraniwa」をスタート。2018年7月に、シェアリビング「ニカイ」がスタートした。持続可能な地域を目指すために、さまざまなプロジェクトが進行中。
https://www.yama-ie.com/
※1「東京オフィス市場で拡大するコワーキング・スペース」より
http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp/Documents/Coworking/20180705-Tokyo-Coworking-Market.pdf
※2 東京R不動産
「レトロな味わい」「改装しよう!」「倉庫っぽい」など、新しい視点で不動産を発見し、紹介するウェブサイト。2003年にサービスを始めた、新機軸の不動産サイトの草分け的存在。
https://www.realtokyoestate.co.jp