人2022.12.09
新たな分野開拓の鍵は熱意とチャレンジ精神[後編]/共和レザー株式会社 久保賢治さん 中村美由紀さん
前編では、自動車用合成皮革を活用したバッグや文具などを取り揃えるファッションブランド「エシカルレザーSobagni(ソバニ)」を立ち上げられた経緯をお聞きしました。
後編では、りんごの絞りかすを活用して、植物由来の合成皮革「ビーガンレザー」を開発されたときのお話を久保部長にお聞きします。
▲(左)開発部 部長 久保賢治さん (右)ブランド企画部部長 中村美由紀さん
――りんごの絞りかすを使用したビーガンレザーも開発されたんですよね。
日本は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするという目標を掲げており、共和レザーもその目標に向かって取組みを進めています。脱炭素に向けて製品開発をする中で、まずビーガンレザーの一つである「りんごレザー®※」を手掛けました。従来の合成皮革は石油を原料とする素材が使用されているのですが、りんごレザーはりんご、植物由来の合成皮革であるため地球環境に優しいです。ビーガンレザーは、海外製のものはありますが、日本製のものは今まで無くて、出来るだけ植物由来のものを使って製品を作りたいと思っていました。※「りんごレザー」は株式会社SORENAの登録商標
2年程前からビーガンレザーの研究や調査をしていて、バイオ材料を粉末化したものを原料にできないかと考えていました。そんな中、2022年2月、長野県のSORENAさんという会社から共和レザーに「りんごを活用して何か一緒に作ることができないか」と問い合わせがありました。長野県はりんごのお酒、シードルが有名なのですがシードルを作る過程でりんごをたくさん絞るそうです。絞ったあとのりんごは廃棄となります。そこで、絞りかすの有効資源化を考えるSORENAさん、長野県飯綱町役場さんと、バイオ材料を使ってビーガンレザーを作りたい共和レザーと目的が一致し、共同で開発を進めました。
▲りんごレザーのバッグ
▲ショールームでは他の製品とともに実物を見ることができます。
――それでりんごのレザーだったんですね。とはいえ、りんごの絞りかすがレザーになるなんて想像がなかなかしづらいです…。
りんごレザーを作るにあたって、大きく2つの技術が必要でした。まずは、りんごの絞りかすを粉末化する技術。そして、粉末化したものを塗料の中に配合する技術です。
粉末化するのがなかなか大変で、使いやすいサイズの粉末にするのに苦労しました。りんごの糖分が残っていると、砕いて細かくする作業のときに火がついたり、ベストなサイズでないとレザーの手触りが悪かったりして非常に難しい工程でした。どのくらいのサイズがいいかは企業秘密ですが、何度も試行錯誤をしました。
また、粉末化したものを塗料に配合するのも単純に混ぜるだけだとうまくいかないんです。これもバランスが難しかったです。
▲右の瓶に入っているものがりんごの絞りかす。左の瓶に入っているものがりんごを粉末化したもの。
――バッグの色が赤いのはりんごレザーならではでしょうか。
りんごレザーなので分かりやすくこの赤色にしていますが(笑)、基本的にはどんな色にもできます。りんごの絞りかすの元の色味の関係で、真っ白にすることは難しいのですが。
色だけではなく、完成したりんごレザーからりんごの香りがしたら面白いと思いますが残念ながらりんごの香りはしません。ただ、加工するときにだけ、アップルパイのような香りがするので私たちは楽しいです(笑)。
まだ燃焼性や耐久性の問題から、自動車内装材としては使用できていないのですが、まず雑貨として始めていて「Sobagni」でもビーガンレザーを使用した商品を展開しています。
今回はりんごでスタートしましたが、今後は静岡の名物、みかんやお茶などを使ってビーガンレザーを作れたらいいなと思います。
りんごレザーを開発された際のお話を久保部長にお聞きしました。
開発には数多くの苦労があったそうですが、試行錯誤を繰り返し、今まで無かった製品を新しく生み出すという非常に難しい挑戦をされました。
技術力はもちろんですが、高いチャレンジ精神があったからこそ生まれた「りんごレザー」なのではないでしょうか。
静岡の名物を原料とするビーガンレザーについては中村部長からも「ぜひ作りたい!」という声があり、今後も共和レザー「Sobagni」の新たな挑戦から目が離せません。