人2017.10.13
“楽しい”アイデアをそのままカタチに R-MONO Lab
今、浜松で起きている面白いこと。そこには必ずキーパーソンがいます。
彼ら彼女たちがいるからこそ、面白いことが起きている。
その発想を紐解くと、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。
“ただ楽しいから、続けていることはありますか?”
「モノづくりのまち」と呼ばれる浜松市。楽器や車、オートバイといった世界的企業がある一方で、市民はモノづくりを楽しんでいるのでしょうか。今回は、ローランド株式会社の社内サークルである、ものづくり同好会「R-MONO Lab(アール・モノラボ)」を訪ねました。
モノづくりは、アート
ー自由なモノづくりを楽しむメイカーたちの祭典「Maker Faire(メイカーフェア)」などで発表したリコーダーを使ったパイプオルガンや、箒(ほうき)ギターが注目を集め、話題になっています。設立して3年が経ち、モノラボを取り巻く環境はどのように変化しましたか?
(山本)リコーダー・パイプオルガンの反応は大きくて、浜松市楽器博物館さんに作品を納めたり、ミュージシャンである小島ケータイニーラブさんと共演したり、いろんなきっかけを作ってくれました。先日、『Make:』というメイカームーブメント(※1)を牽引するメディアの取材を受けたのですが、その記事を見たことを入社の志望理由のひとつにあげている学生さんがいたと当社の人事担当から聞きました。あと、企業内オープン・イノベーションの事例としても注目されているようです。
ーモノづくりのどのような点に面白みを感じますか?
(久保)頭の中にあるアイデアを形にするのが面白いですね。例えば箒(ほうき)ギター。みなさん掃除の時間に箒を持ってギターのマネをしたことがあると思います。「音が出たら楽しいだろうな」を形にして、みんなの前で演奏すると盛り上がる。それが楽しくて。みんなの反応がいいと、次は何を作ろうかというモチベーションにもつながりますし。
ーモノづくりというと、役に立つものというイメージがあるのですが、箒ギターは役には立つとは言えませんね。
(渡瀬)この世界には禁句があって、1つは「それは何の役に立つの?」で、もう1つが「買った方が早いよね」(笑)自分で作るから品質は悪くなることもあるし、制作費が高くつくこともある。それでも、自分で作ることに意義があると思っています。
(久保)モノづくりというと工業製品をイメージすると思いますが、もっと単純に、絵や彫刻みたいなものと思ってみてください。彫刻を前にして、これは何の役に立つんだろうと思わないはずです。そういった感覚で僕らの作ったものを見ると、先の質問自体が成立しないのが分かると思います。その点で楽器は分かりやすいかもしれませんね。役に立つというより、心を豊かにしてくれるものですから。
誰もがモノを作れる時代
ーリコーダー・パイプオルガンは、どのようにして生まれたのですか?
(山本)モノラボができて半年ほどは、あまり活動していなくて。メイカーフェアに当選したので、さて何を作ろうかというのがスタートです。5、6人でブレスト(※3)をしていると、メンバーでもある社長から「リコーダーでパイプオルガンを作ったら面白いと以前から考えていた」というアイデアが出て、「それだ!」と盛り上がり。そこから、どうしたら作れるか試行錯誤していくわけです。
ー技術ありきではなく、完成イメージをどう実現していくかというプロセスなんですね。
(渡瀬)最初にパーツがあって、例えばそれを楽器にしようという「技術から入るパターン」と、今回のように「形から入るパターン」の2つがあります。あとは、予算内で手に入れられる部品で作れるのか、期日までに完成できるのかといった条件を考慮し、制作していきます。
ー楽しそうな雰囲気はとても伝わってくるのですが、馴染みがないせいか、アイデアを形にするということに敷居を感じてしまいます。
(久保)楽器と似ているかもしれませんね。ピアノを弾いている人を見ると楽しそうだけど、自分が演奏してみると意外と難しい。でも、上手くなくても弾いて音を出してみたら楽しかったりする(笑)案外、そういったことの積み重ねだと思いますよ。
(渡瀬)スキルの問題もありますが、自分ができないと思うと、やはりできませんよね。ひと昔前と比べて、モノづくりのコストは圧倒的に下がったし、欲しいパーツはネットで簡単に購入できる。分からないこともGoogleやYouTubeが教えてくれます。僕たちはそんな時代に生きているんです。
発想の原点は、自分も楽しみ、相手も楽しませること
ー浜松市はモノづくりがさかんな都市ですが、みなさんはどのように感じますか?
(久保)メイカーフェアなどに行くと、浜松から参加している人が多いという感覚はあります。モノづくり企業も多いですし、静岡大学工学部さんの影響もあるんじゃないですかね。
(久保)浜松って、ピアノやオートバイ、軽自動車、テレビなど、日本初のものをたくさん発明しているじゃないですか。潜在的に、モノづくりのポテンシャルが高い地域だと思います。
ー役に立つものは不具合を改善していけば作れそうですが、創造的なものはどのようにしたら生まれるのでしょうか?
(渡瀬)それは、僕も教えて欲しいくらいですよ(笑)
(山本)ナンセンスなものなら、お笑いに近いかもしれません。意外性とか、相手をどう楽しませるのか、という発想です。
ー今後、どのようなものを作りたいですか?
(山本)リコーダー・パイプオルガンや箒ギターを越える、注目されるものを作りたいですね。以前はみんなで1つのものを作っていましたが、いまはメンバー個人個人が好きなものを楽しみながら作っている、その雰囲気も大事にしていきたいと思っています。
ー注目される喜びが、モノづくりのモチベーションになっているんですね。
(山本)どうせ作るなら誰からも反応がないより、FacebookやTwitterで話題になりたいですね。みんなに楽しんでもらいたいですし、モノづくりは自己満足の世界ですから(笑)
レシピも調理器具も簡単に手に入るけれど、料理は作るよりも、食べることが好きな人が圧倒的に多い。それはモノづくりも同じで、3Dプリンターやレーザーカッターなど、手軽にモノを作れるハードは整いつつあるけれど、実際に作る人はまだまだ少ない。今回、3人のお話を聞いていてハッとしたのが、「みんなに『いいね!』と言われたい」と言う言葉。応援してくれる人、盛り上げてくれる人、面白がってくれる人の存在は、モノづくりの原動力になるはずです。そんなソフトの環境も整ったとき、初めて「モノづくりのまち」と言えるのかもしれません。
(プロフィール)
R-MONO Lab
2014年12月、ローランド株式会社のモノづくり同好会(部活)として活動をスタート。電子工作、木工、アプリ、プラモデル、アクセサリーなど分野は特定せず、「作りたいものを作ろう」をモットーに、モノづくりイベントでの作品発表や、工具を安全に利用するための講習会など、部員同士の交流をしながら制作活動を行う。第3回タカハソレノイドコンテストでハイブリッド・リコーダー・パイプオルガン「RP-09」がいいね!賞受賞。
http://r-mono-lab.tumblr.com/
※1メイカームーブメント(Maker Movement)
3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタル工作機器を使った新しい製造のトレンド。第3の産業革命とも言われる。テクノロジーの進化によって、これまで企業や専門性の高い人たちだけのものだった「モノを作る」技術や情報を、誰でも簡単に手に入れることができる時代になり、個人の発明が社会を変えることも可能になった。
※2 アルペジオ…和音をばらして一音一音発音させる演奏法。
タッピング…弦を指で叩き付けて押弦したりそのまま横に弾いたりして音を出す演奏法。
※3 ブレスト
ブレインストーミングの略。複数人が集まって自由に意見を述べる、アイデア創出のための方法。