人2022.08.02
自分の価値観を持ってチャレンジを続けること[後編]トリイソース/鳥居大資さん
価値観が多様化する現代の中で、なるべく廃棄を減らし、食材や資源を大切にしている「トリイソース」。食べられる部分や使えるものは全て使い切ると話す鳥居社長の今後挑戦したいこと、企業としての在り方をお聞きしました。
~前編より続く~
――これから新たに挑戦したいことはありますか?
トリイソースの商品の一つである山椒ソースの原料を安定供給するため、山椒を市街地で育てることを考えています。浜松市は春野町が山椒の産地であり、ミカン科である山椒は柑橘系の香りがしてとても良いものです。しかし、浜松の山椒には課題が2つあります。まず1つ目は、収穫量が少ないという問題です。元々は、お茶農家さんがお茶だけで農業をすることに経済的危機感を持ち、その他の収入源として始めた山椒ですが、お茶と山椒の収穫期が被ることが多々あるそうです。お茶の収穫が安定しているのに対し、山椒の収穫は不安定だそうで、そうなると、いくらお茶に対して危機感を持っていても山椒よりお茶の方に力を入れます。すると山椒の収穫量が減ってしまいます。
2つ目の問題は、山椒が動物に食べられてしまう鳥獣被害です。ある程度大きくなればいいのですが、背丈が小さいうちにシカによって食べられてしまうことが多いそうです。
――そこで「市街地」で育てようと?
ある程度大きく、シカが届かないくらいの背丈になるまで市街地で育てて、そこから春野に引っ越しして収穫すれば安定供給が望めるのではないかと思いました。農家さんの課題解決にも繋がるし、「市街地で育てた山椒」として浜松の特産品として売れば面白いのではないかと。
――たしかに実現したらユニークな商品になりますね。
浜松はうなぎが特産品として有名で、観光客の方が食べられることが多いと思います。そのときうなぎと一緒に添えられている山椒は中国産のものがほとんどですが、その山椒までもが浜松産だったら良いなと思っていて。
とはいえ、まだ構想段階で実現するのに何年かかるか分かりませんし、まちなかで山椒が育つか分かりません。いろいろ試行錯誤しながらになるので、長い時間がかかると思います。
▲ソース工場の様子
――魅力的な構想をお話される鳥居社長ですが、その考えからは一貫して「せっかくやるなら意義のあるものにしたい」という想いが感じ取れました。
浜松の企業としての在り方について、次のようにお話していただきました。
浜松といえば○○、という題に対して、例がいくつか挙げられると思います。うなぎ、オートバイ、ピアノ、みかん、お茶、などなど…。最初私はそういったものに紐づけなければ、と焦りを感じていました。しかし、それは吹っ切れて、市内企業みんなそれぞれのベクトルに向けてやっていけばいいと思っています。トリイソースもトリイソースなりの価値基準、ベクトルで進んでいけばいいと。それで勝負できるのか?となったときにインターネットがツールとして生きてきます。全国の人とつながることができ、トリイソースの価値観に共感してくれる人が全国の0.1%の人でもいればそれでいいと考えています。
価値観が多様化する現代で、何人に共感を与えられるかが重要なのかなと。
トリイソース、ひいては浜松の価値基準って良いなと思ってもらえるような仕組み作りをし、浜松を魅力的な地方だと思ってもらうことが私の目標でもあり仕事です。
▲穏やかな人柄の鳥居社長
鳥居社長が強調していた「価値観の多様化」。何を大切に考えるかは本当に人それぞれで、自分が何を大切にしたいかによって必要なものは変わってきます。「企業理念は得てして抽象的な言葉が多く、それを実際の業務レベルにまで落としこもうとすると理念だけでは判断が難しいです。そのため、価値基準が必要となり、その価値基準を私自身が示しています。」と話す鳥居社長は次のように続けます。「価値基準をしっかり定めてあげないと、判断がぶれます。企業は特に、先に価値基準を定めそれに向かって進んでいくことが大事です」。
新しいものでも、古いものでも、自分が大切なこと、重要だと思うことを軸にして新しいことにチャレンジする。
そこから生み出された価値や気付きが人を繋ぎ、その繋がりや出会いがまた、新たな価値を生み出します。そんな循環が広がっていくと、さらに魅力的で楽しいまちになっていくのではないでしょうか。
トリイソースHP