人2020.09.30
街の活性化に都市型醸造所という選択[前編]Octagon Brewing(オクタゴン・ブリューイング)/ 千葉恭広さん
~自分の技術を何に使いますか?~
クラフトビールは、小規模な醸造所でビール職人の手によって造り出される高い品質のビールです。2018年2月、浜松の街に賑わいをという思いから、ゼロから醸造所を構築し、オリジナルのクラフトビールを造り続ける「Octagon Brewing」。ここで醸造責任者を務める千葉恭広さんを訪ね、浜松でビールを造ること、そしてビール醸造家としての思いや夢についてお話を伺いました。
▲「安心して飲める浜松産のビールを造り続けたい」と語る千葉恭広さん。
―― 千葉さんのビール造りの技術はどこで?
(千葉) ドイツです。日本の大学を卒業した後、クラフトビールの多様性や面白さをいろいろな人に知って欲しいと思い、醸造学を学ぶために留学しました。ドイツ国内の醸造所でも実地研修を経験しています。
―― やはりビールといえばドイツだからですか?
(千葉) 世界的にビールを専門的にきちんと学べる事が出来る国はあまり多くありません。僕が留学したいと思って調べたときは、醸造学を基礎から学べる大学は4か国にしかありませんでした。その中から経済的な理由でドイツに決めたのですが、ドイツには町や村ごとに銘柄があるといわれるほど、個性豊かなビールがあります。自分の住んでいる土地で造られている伝統的なビールが好きという方が大半だとは思いますが、ビール=1種類ではなく、様々な種類があるという事を普通に知っています。そういった人たちがいる場所で専門的に学べたのは本当によかったなと思っています。
―― ドイツの国家資格も取得されているとお伺いしました。
(千葉) 「ディプロム・ブラウマイスター」という資格を取得しました。ビールに関するあらゆる知識・技術を身につけた人に与えられるものなんですが、技術的な勉強よりもドイツ語に苦労した思い出のほうが強いですけどね(笑)。
―― 帰国後東京で活動されていた千葉さんが浜松に来たきっかけを教えてください。
(千葉) Octagon Brewingをオープンするときに声をかけてもらいました。クラフトビールで浜松ににぎわいをというOctagon Brewingの考えに非常に好感が持てました。
クラフトビールはアメリカが発祥といわれるように、アメリカやイギリス、北欧など、世界各地で盛んに造られています。しかし日本、とくに浜松はまだまだクラフトビールの認知度は低いです。浜松なら自分がやろうと思っていた事が出来、さらにはクラフトビール業界を盛り上げていく手助けになるのではないかと思いました。クラフトビールを軸として、街の様々な人が集まりにぎやかで楽しい空間が出来たらとても素晴らしい事だと思っています。
―― 浜松のまちなかでビールを造っていることが不思議な気がします。
(千葉) 小さい規模でも造れるのがクラフトビールですからね。広さに関して今の環境は、東京よりはるかに恵まれています。都市部ではもっと小さい醸造所も珍しくないですよ。
▲店の奥にある醸造所には、容量300リットルのタンクが5つ並んでいる。
―― この醸造所で最初に作ったビールについて、教えてください。
(千葉) 浜松の皆さんにクラフトビールの多様性を楽しんでいただきたいと考えて、ベルギーの小麦を使った茶褐色のビールや苦味の強いビールなど、個性の違う5種類に絞りこみました。しかし、残念なことに3種類は狙い通りの味にならず、オープン時に提供できたのは2種類になってしまいました。時間的な制約から、事前のテストができなかったのは痛恨でした。でもそれ以来、廃棄するような失敗はありませんけどね(笑)
▲スタンダードなビール以外に、三ケ日みかんやうなぎパイを原料にしたご当地ものにもチャレンジ。
―― オープンからこれまで何種類のビールを造られましたか?
(千葉) おかげさまで、もうすぐ100種類です(取材当時)。
街の活性化に向けてオープンしたOctagon Brewing。ここを拠点に確かな技術でクラフトビールを提供する千葉さんの高い専門性が伺うことができました。後半では、千葉さんのビール醸造家としての思いや、今後に向けた活動について、さらにお話を深めていきたいと思います。
Octagon Brewing(オクタゴン・ブリューイング)醸造責任者 千葉恭広
大阪府門真市出身。日本の大学を卒業後、理論的にビール造りを学ぶため、ドイツのミュンヘン工科大学醸造工学部へ入学。フライベルガー醸造所およびヴァイエンシュテファン研究醸造所での実地研修を経て、2011年にディプロム・ブラウマイスターの資格を取得。帰国後は東京で若手醸造家の技術指導アドバイザーを務める。2017年11月からオクタゴン・ブリューイングの醸造責任者を務めている。
(写真提供:丸八不動産株式会社)