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2018.04.17

農業の魅力を体感できる場所 農+ (ノーティス)今津亮さん

今、浜松で起きている面白いこと。

まだ、小さなムーブメントかもしれないけれど、

なぜか惹きつけられてしまう不思議な魅力がある。

その秘密を探ってみると、「創造都市・浜松」の明日のカケラが見えてくるかもしれない。

 〜あなたは、農業の変化に気づいていますか?〜

 

 

 

温暖な浜松市は、みかん、じゃがいも、玉ねぎ、セルリーなど、全国トップクラスの生産高の野菜が数多く生産されています。さらに市町村別の農業産出額では全国7位※と、全国有数の農業産地です。今回は、昨年11月に農家レストラン「農+(ノーティス)」をオープンさせ、人と畑と料理をつなぐ農園を経営する今津亮さんを訪ね、農的視点で見た浜松の魅力、課題を教えてもらいました。

▲農+ 園主 今津亮さん

 

届け方を変える

 

ーー浜松で農業をされてどれくらいになりますか?

 

24歳で独立したんですが、大学3年の時から農業の研究開発系企業で働いていたから、もう10年くらいになります。

 

ーー埼玉県出身である今津さんが、農業をする場所として浜松を選んだ理由を教えてください。

 

 

理由は4つあって、1つは晴れの日が多く、日照時間が長いこと。2つめに三方原の赤土、篠原の砂地、都田の黒土と、せまいエリアで土の種類が豊富なこと。3つめに太平洋側で野菜を育てる南限と北限の境界が浜松市近辺にあり、さまざまな野菜が育てられること。4つめに遠州のからっ風が野菜の糖度を高めてくれることです。今までは農地を借りて生産していましたが、レストランのオープンを機に農地を買い、120種品目以上と言っていますが、数えるのが大変になって実際は140種くらいの野菜を生産しています(笑)。

 

ーー農業をはじめようと思ったきっかけは何ですか。

 

高校の部活でケガをして、その治療中に食や栄養に興味を持ちました。でも本で勉強するだけではつまらなくて、貯めたバイト代で京都や長崎、群馬、神奈川、浜松などの農家を訪ね、数日にわたり農作業を手伝いながら、話を聞かせてもらいました。

 

ーー遠いところから高校生が来た、とかわいがってもらえたんじゃないですか。

 

当時はホームページもGoogleマップもなかったので、アポなしで訪問したんです。だからずいぶん珍しがられましたね。そうやって色々と学ぶうちに、農業が持っている文化的背景や多面的な機能に興味を持ち、自分の仕事にしていきたいと思うようになりました。当時の経験を全国農業コンクールに小論文として応募したら入選しました(笑)。

 

ーー農業のスタイルについて、目指すものはありますか。

農業を変えていくには、現場(畑)か、販売かの2択。僕らの世代は現場よりも、販売しながら改善している人が多い傾向にあります。新しい技術を活用し、人を巻き込みながら、農業をよりよいものにしていきたいと考えています。

その土地ならではの味

 

ーー「農+」の野菜の特徴は何ですか。

 

慣行栽培(一般的な栽培方法)と比べて農薬を減らした「特別栽培農産物」だということです。でも一番の特徴は、食卓に並んだところや、できあがりを意識して生産していることです。例えばキャベツなら、辛味をなくし、甘みを強くしています。芯の部分の糖度は13度もあって、甘い三ヶ日みかんぐらい。そのためにも、植える場所をきちんと選んで、生産しています。

 

ーーそんな野菜の魅力を消費者に伝えるためにお店をオープンしたんですね。

 

今は写真や動画の情報があふれているけれど、味覚や香りは体験してもらわないと分かりません。野菜や農業の魅力を体感できる場を作りたいと思い、このお店をはじめました。

 

ーー農業を体験したいという需要は多いのですか?

 

農園を見たいという依頼が結構あって、月10件くらいになることもあります。僕のお客さんはワイン好きの方が多いんですよ。ワイン好きの方って、知識を入れて楽しみたいという欲求が強いのかもしれませんね。

 

ーーそんな野菜をたっぷり使った「お野菜重 盛り合せ」は見事ですね。

 

農家の育てたサラダもいいですが、それなら家でも作れるし。生産者としての農家が考えるメニューだからこそ、ひとつずつ手間をかけて、どうおいしくい召し上がってもらえるか試行錯誤しています。お重の野菜は8種類あるので、考えるのはとても大変ですけど(笑)。

ーー野菜のおいしさを感じて欲しい、という思いが伺えます。

 

それもありますが、「おいしい」を切り口に、農業の魅力、浜松の魅力を感じてもらえる場所にしたいです。メイン料理に三ヶ日豚や浜名湖の牡蠣を使うのもそんな理由からです。

 

ーー住んでいるのにその地域の特産物の魅力になかなか気付けなかったりしますよね。

 

それから、「生で野菜を食べられるよ」と言うと、「農薬を使ってないからでしょ」と言われるんですね。もちろんそれも意識していますが、土を選び、肥料のやり方、収穫のタイミングなどに気をつけることでこういう味になるということ。肥料の味ではなく土の味というか、野菜の味を知ってもらいたいですね。年配で口の肥えた方だと、「赤土の梨の方がおいしい」と言ったりしますから。ただし、伝えたいことはたくさんあっても、押しつけがましくならないようにしています。

 

マネされる仕事をつくる

 

ーー浜松市をはじめ全国的な課題として、耕作放棄地の再生が挙げられますが、どう思われますか。

 

浜松や静岡なら茶畑、群馬だと蚕(桑畑)が耕作放棄地になっていますが、作り手が減っているのではなくて、一番減っているのは「売り先」だと考えます。

 

ーーそもそも需要が減っているから、作っても売れないということですね。

 

あと、農地として使いにくい環境に変化していることも原因の一つかもしれません。この店の周辺もいつかは農地が減ったと言われると思います。なぜなら、すぐ近くに工場ができたり、開発が進んだりすれば、理想とする農業はできないですから。高齢化が原因と言われていますが、経済的な環境変化も大きいことを知って欲しいですね。

▲昨年オープンしたばかりのレストラン。すぐ隣に農+の畑が広がる。

 

ーー今後の目標を教えてください。

 

僕らがやっていることをマネする人が増えたらうれしいですね。こういうやり方で農業ができる、という見本になりたい。新規就農者が増えていますが、同じくらい辞める人もいる。農業という仕事がちゃんと残っていけるようにしたいですね。地方の農業法人だと初任給11万とか13万で、その後、給料があがらないとう話も聞きます。

 

ーーもう少しバラ色な世界かと思っていました。地域のものを地域の人が食べるという仕組みになれば、強い社会になると思うのですが。

 

浜松では色々な野菜が作られていますが、地元ではあまり消費されず、ほとんどが大都市に流れている現状です。育てた野菜の価値をしっかり伝えていかない限り、単においしい野菜なだけでは売れません。家庭菜園の産業は10年前から伸びてきていますし、オーナー制度も認知されてきました。農業が持っている「癒し」も産業として成り立っていくカテゴリーなのかなと思います。畑だけが農業という時代では確実になくなっています。浜松で生産できない野菜はほとんどないし、人口も多いから、まだまだ可能性があるまちだと思います。

 

 

「農+」のレストランにある大きな窓からは、さまざまな野菜が育つ畑を見ることができます。それらはオープンキッチンにいる料理長によって料理となって、お客さんのもとへ運ばれます。「農+」では、そこでしか味わえないおいしさが体験できる場所でした。

野菜、農業、そして浜松の魅力。今津さんのお話を伺って、まだまだ新しく知る余地があると感じ、わくわくしました。農業大国・浜松の市民はそのいちばんの消費者として、「農」とのかかわり方を今一度見つめなおしてみるべきかもしれません。

 

(プロフィール)

農+(ノーティス) 園主 今津亮さん

高校生の時に農業に興味を持ち、全国の農家を訪ねる。東京農業大学を卒業後、浜松市にある農業開発の企業に勤務。インドネシアや内モンゴルなど、国内外で農業開発に携わる。2011年に独立し「農+」を創業。「人と畑と料理をつなぐ農園」をモットーに、お皿の上の幸福を考えた野菜を栽培。2017年11月、都田・四大地にレストランをオープン。

https://notice-vegetable.storeinfo.jp/

 

※農林水産省 平成27年市町村別農業産出額(推計)による

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